まったりのんびりほっこり

ゲームや読書などを中心に、日々感じたことを書いてます。

伊坂幸太郎『逆ソクラテス』感想

 

久しぶりに伊坂幸太郎さんの小説を読みました。

伊坂さんの作品のセンスのある会話やどんでん返しなどの展開などが好きなのですが、今回の作品は主に子供が主人公ということもあり、少し心配をしておりました。

 

ですが、やはり伊坂先生!子供であってもちゃんとセンスのある会話が登場しています。

まぁ正直「小学生がこんなこと言う?」というのもありますが、それほど違和感はありませんでした。

 

また全体を通して、人としての大切なものがメッセージとして込められています。

学校で教わる勉強以外のとても大切なもの。

子供だけではなく、私も含めて大人にもぜひ読んで欲しい内容となっております。

 

短編5編で構成されている本作。

それぞれについて簡単な感想を綴らせていただきます。

 

 

ソクラテス

先入観についての話。

自分の先入観で相手を見たとき、その時の好き嫌いなどの感情で評価が分かれる。

またその発言によって、周りの人物にも影響を与え評価を左右させる。

 

これって、ありがちですよね。

もちろん先入観を持って見てはいけないと頭では理解していても、つい先入観に引っ張られて会話することもあります。。 

 

そんな時、相手から「自分はそうは思わない」と言われたらどうでしょう?

もしくは、相手が先入観から意見を言って来た時、「自分はそうは思わない」とはっきりと言えたら。

 

小学生でこの発言は達観しているなと思うものの、大人の自分にも刺さる言葉でした。

 

ずっと教師にダメ評価をされていた少年が、ある作戦をキッカケに自分への評価を変えていく。

プロ野球選手になったらサインを」という約束は、冒頭のプロ野球のシーンにつながっていて、少年の活躍が素直に嬉しかったです。

  

スロウではない

全体的な流れは、いじめっ子といじめられっ子の話。

クラスのいじめっ子に、ことあるごとに絡まれる転校生の少女。

前の学校でいじめられていたから転校して来た、といじめっ子にばらされますが、実は別の理由があって・・・。

「スロウではない」というタイトルについても、この理由から察せられます。

 

また、随所に主人公と友人のゴッドファーザーを模した会話が挟まり、「ドン・コルレオーネ」と呼びかけ、現実の理不尽さについて揶揄しているのがとても小気味良かったです。

 

その他にも未来と過去の描写が交互にあり、未来は小学校当時の担任との会話で構成されています。

未来の話で、歳を重ねた元担任との会話については胸が熱くなりました。

 

 非オプティマ

「相手によって態度を変えることほど、格好悪いことはない」

まさにこの話の全てを集約している言葉だと思いました。

 

クラスで授業中にペンケースを落とす行為を先導する騎士人。

そんな彼に、いつも貧乏そうな服装の為見下されている福生

生徒達になめられている担任の久保先生。

 

主人公の将太はふとしたことがきっかけで、福生とつるむように。

ある日、福生と共に久保先生の抱える秘密に触れたことがきっかけで、久保先生に変化が訪れます。

学校公開(授業参観)で、久保先生が発した言葉が「相手によって態度を変えることほど、格好悪いことはない」。

 

今まで騎士人にさんざん馬鹿にされてきた福生が、最後に騎士人にかけたのはどんな言葉だったのか。

とても気になります。

 

アンスポーツマンライク

主にバスケットの話。

バスケに詳しくないけれど、プレイについての描写に特に困ることもなく、楽しく読ませていただきました。

 

小学校のミニバス時代から一緒だった歩達5人。

「スロウではない」にも出ていた磯憲がコーチで登場。

ここでも磯憲は心に響くセリフを言います。

大人になった歩達が遭遇した事件で、そのセリフがとても温かく心にしみ込んできます。

 

また、タイトルの「アンスポーツマンライク」についても、ラストで希望が見える演出がされていて、胸がジンと熱くなりました。

この出来事が、この後別の感動を生むことになります。 

 

逆ワシントン

アメリカ大統領ワシントンの逸話から、真面目で正直に謝ることができることの大切さについての物語。

 

作中、ワシントンの逸話について「実話ではなかった」という描写があるけれど、それでも正直で誠実な姿勢や態度は、自分の為だけではなく、少なからず他人にも良い影響を与えるものだよね。

この作品を読んで、そんな感想が浮かびました。

 

自分に正直に。相手に誠実に。そんな行為の全てが報われるわけではないけれど、最後に報われたのではないかな?と思わせる演出には、感動がこみ上げてきました。 

 

終わりに・・・

いくつかの作品に登場する磯憲先生は、伊坂さんの小学校時代の担任の先生から名前をお借りしているそうです。

「勉強とはまた違う大切なこと」を教えていただいたそうで、こういう素敵なめぐり合わせがとても羨ましくなりました。

本作でも、この「勉強とはまた違う大切なこと」を学んだ気がします。

 

コロナの影響で何かと心が疲れている方、また人として大切なことを見つめ直したい方など、気になる方はぜひ読んでいただけらと思います。

どの話も、読後、心に残るものがきっとあると思いますから。。。