まったりのんびりほっこり

ゲームや読書などを中心に、日々感じたことを書いてます。

森博嗣『馬鹿と嘘の弓』感想

そこにオチがあるのか、というミステリィを書いてみました。

浮遊工作室 (ミステリィ制作部)


久々に読んだ森博嗣先生の小説。

上記文章は公式サイトの内容紹介にあったものの引用です。

「ミステリーなのにオチがない?」なんて一体どんなお話なのだろう?と興味津々読み進めました。

 

 

※若干ネタバレ要素がありますので、読まれる際はご注意ください。

XシリーズとGシリーズのキャラクター登場

読み始めて、Xシリーズの小川さんと加部谷さん(Gシリーズからですが)が登場していることに驚きと嬉しさが!

 

『ダマシ × ダマシ』で依頼者だった加部谷恵美が、今作では探偵として登場しているのも感慨深いものがあります。。。

「恋愛はもうこりごり」と言っているのも、彼女の経験からすれば仕方ないのかなと思いつつ、ここで立ち直って欲しいなと本気で思ってしまいました。

 

また、小川さんも多少(?)歳をとったようですが、二人しかいない探偵事務所を切り盛りしている姿が、相変わらずキビキビしていてカッコいいですね。

 

 

そんな二人の元に、「ある人物を探し出してほしい。秘密裏に見張るというわけではなく、本人に話しかけても良い」と言う、何ともゆるい依頼が舞い込みます。

 

ターゲットは、若いのにホームレス生活をしている柚原。

彼は家庭環境に恵まれず、幼いころから生活に苦労をしていた過去があります。

柔らかい物腰で社会を俯瞰して語るその姿は、厭世的で冷めていながらも話す内容は理論的で、しっかりした考えや思考に裏付けされているのがわかります。

ですが、どこか危うい印象が拭えません。。

 

社会を俯瞰して語る姿は、どことなくGシリーズの海月くんににているな~と思っていたら、加部谷も幾度となく海月(おそらく)を重ねて思い出している様子。

彼女の告白シーンを読んでいた身としては、何とも言えない切なさが胸を突きます。

 

この時系列だと、海月くんはアメリカだっけ?

Gシリーズの行方も気になるのだけど、続刊はいつ発売されるのかしら?

そういえば椙田さんはどうしているのかな?

などと、ついつい懐かしい面々を思い出しなら読んでしまいました。

この繋がりが、森先生の小説の醍醐味ともいえるのでしょうね。

 

亡くなったホームレスの謎

ある日、柚原に声をかけてきて本を渡した老人のホームレスの飯山。

ですが、肺炎による衰弱と脳梗塞の発作が重なったことによって突然亡くなってしまいます。

そして飯山が柚原の写真を持っていたことから、いろいろな謎が浮上していきます。

 

過去に大学の教授までしており、自宅のマンションまで持っていた彼が、なぜホームレスの生活をしていたのか。

そして柚原の写真を持っていたのは何故か? 

どうやら、小川たちに柚原の監視を依頼していた人物と同じ動機のようなのですが。。

 

そんな折、飯山の妹からも、彼のこの半年間の動向を調べて欲しいと依頼を受けます。 

小川と加部谷は、元々の柚原を監視する依頼と、飯山の動向を調べるという、二つの依頼をこなしていくことになりました。

 

別々の人物でありながら、何故同じ写真を持っていたのか?

柚原を見張ることと、飯山が柚原に近づいたことは関連があるのか?

 

そうして調査をしていく内に、小川と加部谷はある事実にたどり着きます。

その事実は、少なくとも柚原の人生をもう少し生きやすくできるものでもあったでしょうに。。

 

馬鹿と嘘の弓

柚原という青年は、この世の中の不公平さに不満があり、この問題をある程度解決するには社会のシステムをどうすれば可能になるかなどの考えをしっかり持っています。

 

普通の家庭環境で育ち普通に進学していれば、さぞかし優秀な成績を収めて、それなりの仕事について活躍できるポテンシャルもあったはず。

ですので、ラストの行動には衝撃が走りました。

 

いや、ある程度予感というか、多少危険を感じさせる思考描写はあったのですが、考えに考え抜いた結果としての行動ということの方が衝撃でしたかね。。 

あくまでも私の主観なのですが、まるでサイレント映画のように静かで、只々その残忍な行為を眺めているような…。

 

更に、その行為の理由というか理屈がものすごく理路整然としていて、なおかつ落ち着いて説明できる柚原に、ある意味恐怖も感じました。

 

頭が良くてもどこかで歯車が狂ってしまうと、こういう思考経路でこういう行動を起こすんだと、違和感なく納得させられている自分。

サイコパスという表現が正しいのかどうかわかりませんが、私は彼にそのような印象を受けました。

それほど柚原の思考がクリアに描写されています。

 

ですが自分は「馬鹿と嘘の弓」であっても、ある程度の小さな幸せを感じることができる方がずっと良いと思ってしまいます。

人間はほとんどの人が「馬鹿と嘘の弓」ではないのでしょうか・・・?

柚原は利口すぎた故に、彼の定義する「馬鹿」を軽蔑していましたし、今回の事件の引き金にもなったのでしょう。

ただ、目的を果たすための行動としては、あまりにも浅慮としか言えない気がしてしまいました。

如何に彼が考え抜いた計画で、成功して涙を流していたとしても。。

 

柚原の出した結論と期待する未来。

果たして彼にとって本当に幸せなのかどうかは、彼にしかわからないのでしょう。

 

そして、そんな柚原の行動に一番ショックを受けたであろう加部谷の悲しみが胸に沁みます。

 

Gシリーズではあんなに明るくて元気だった恵美ちゃんが、どうしてこんな目にばかりあうのか、本当に気の毒でなりません。。

もし自分が海に誘わなかったら・・・なんて考えて自分の事を疫病神なんて言ったのかな。

 

いずれにしても、もう少し彼と早く連絡が取れていたらこんな事は起こらなかったのではないか、とも思ってしまいます。

 

今は小川さんが彼女の支えになっているようで、とても頼もしいです。

 

まとめ

全体的な感想については、「森博嗣先生らしい」お話だったなと。

 

そこで起きた事を誇張するでもなく、ある意味淡々と静かな描写が続いて行きます。

これで加部谷恵美と小川令子がでてこなかったら、私にとってはもう少し味気なかったかもしれません。。

 

ですが、この世界観が森先生らしくて大好きなのも事実。

柚原の最後の行動は、少しだけヴォイド・シェイパシリーズを想起させました。

 

今後この話の続きが出るのかどうかわかりませんが、もし出るのであれば、二人が幸せに生きていてほしいなと願うばかりです。