前作の『下鴨アンティーク アリスと紫式部』がとても面白かったので、すぐに2作目の『下鴨アンティーク 回転木馬とレモンパイ』も読了。
本当にスルスルと読み進めることができるくらい文章が読み易く、ストーリーも面白いため自然に没入してしまいました。
また今作では、前回あまり活躍(?)しなかった良鷹がメインのお話もあり、とても楽しめました。
今回は章ごとに感想を綴らせていただきます。
※若干ネタバレがありますので、読まれる際はくれぐれもご注意ください。
ペルセフォネと秘密の花園
プリシラと言うイギリス人の少女が、良鷹を訪ねてきたことから物語が始まります。
あいにく良鷹は珍しく仕事で一週間ほど留守であり、プリシラからの依頼の「秘密の花園」について、鹿乃と慧が調べることに。
この「秘密の花園」というのも当然アンティーク着物ですが、プリシラの大伯母のものであるという本も登場します。
そこに挟まれていた栞がヒントになり、問題の着物を蔵から発見するのですが、案の定普通の着物ではない訳で、「花園」にちなんだ「花」がない有様。
この着物に花を戻すために、鹿乃と慧が奔走します。
イギリス人であるプリシラですが、日本語が流暢で性格も真っすぐ。
現在の着物の所有者である誓一にも、物怖じせずに迫っていきます。
初めはプリシラの事を邪見に扱っていた誓一ですが、段々プリシラのペースに巻き込まれ、振り回されながらも追い払おうとしない姿には、結構お似合いだなと思ってしまいました。
また「秘密の花園」について、鹿乃の祖母が込めた「秘められた想い」についても胸が熱くなりました。
ラストで「秘密の花園」の謎が解けて、着物に花が戻るシーンはとても幻想的でしたし、誓一の祖父が着物を彼に託した理由についても、心温まるものでした。
それにしても、慧と鹿乃が二人で料理を作っているシーンがよくあるのですが、二人とも手際がよく、料理があまり得意でない私は感心しきりでした。。
杜若少年の逃亡
冒頭の、鹿乃が子供の頃、慧がよく作ってくれた黒砂糖のクマさんのホットケーキに心を奪われました(笑)。
蔵の目録に「杜若 藍色地男児着物」という着物を見つけ気になった鹿乃は、この着物を調べることに。
着物を取り出したところに、慧の後輩がやってきたため束の間相手をして戻ったところ、その着物が無くなっていることに気付いた鹿乃。
と同時に、家の中にその着物を着た子供が現れ、まるで鬼ごっこのように逃げ回ります。
どうやら子供の正体を見抜かないと、着物が元に戻らないらしい。
そうして鹿乃達の調査が始まります。
今回、慧の後輩で博物館に勤めている加茂も調査に参加するのですが、慧の後輩=良鷹の後輩でもあるはずなのに、全く覚えていない良鷹(笑)。
それにもめげずに、野々宮家の美術品に目を輝かせたり、鹿乃に彼氏がいるか屈託なく聞いたり、無自覚に良鷹の神経を逆なでする様子が笑えました。
着物の謎は、子供が生きていた時代背景が色濃く反映されたものでした。。
ですが不幸だったわけではなく、ロマンティックな締めくくりでホッと胸をなでおろしました。
亡き乙女のためのパヴァーヌ
プリシラも交えた鹿乃の友人たちが、着物を着て女子会をしている様子から始まるのですが、「杜若少年の逃亡」にも登場した加茂が、実は鹿乃の友人の奈緒の家庭教師だったことが判明。
この二人のやり取りが中々面白くて「中々良い感じでは?」などと思いましたが、どうやら当人同士はそんな気は無さそうです。
おまけに加茂のことを慧は「ゴムボールみたいなもんだ」と言う始末。
それにしても、女子会の最中にきちんと紅茶のおかわりを持ってきてくれるなんて、慧は本当にそつがないですね。
そんな明るい雰囲気から一転、奈緒が好きな着物の柄は「楽器や音符の柄がいい」と言ったことから、今回は少し重い音符柄の帯の話。
今までのような微笑ましい話と違って、戦争中のやるせなくて悲しい物語でした。。
戦時中、この帯の持ち主が音符に託した想いはとても素直でないのだけれど、そんな偏屈な人物が大切な人を戦禍で亡くし、その遺体をかき集めるという行為にどれだけの想いが込められていたのか。
その意味を想うと涙が溢れて止まりませんでした。。
いつの時代でもどこの国でも、戦争というワードには常に悲愴感が付きまといます。
この戦争のくだりでは、「もし」という単語が幾度も繰り返され、変えられない現実を受け止めきれない悲しさを描いていました。。
最後に慧と鹿乃の心温まる様子が描かれていたので、それでかなり心が救われましたね
。
慧の、鹿乃を大切に想う気持ちが優しさに溢れていて、今度は温かい涙が滲みました。
回転木馬とレモンパイ
珍しく良鷹がメインのお話。
普段のずぼらな良鷹のイメージと違って、明晰な頭脳に驚きつつも、物語全体としてはとても切なかったです。。
「回転木馬を、見つけてほしいんです。」
という、病床の老婦人からの不思議な依頼に戸惑う良鷹。
七十年も前から鳴らなくなったオルゴール。
馬が音色を持って、本当の持ち主の元へ飛んで行っと話す依頼主の老婦人。
どうやら込み入った事情があるらしく、体調がよくなったらまた来て欲しいと懇願されます。
ところが体調は良くならず、そのまま帰らぬ人に。。。
そうして不本意ながらも良鷹は、今回の依頼の仲介業者「如月堂」の娘の真帆と謎を解いていくことになります。
この、逝ってしまった老婦人なのですが、あまりにも過去の写真や思い出がなさすぎて、途中でもしかしたらとある推測が浮かびました。
ですが、半分は当たりで半分は予想外な展開に。
さすがに私ごときでは、そう簡単に謎は解けなかったです。。
でもその真実が明らかにされた時、とても切なくなりました。
当たり前ですが、亡くなってしまってからでは、想いを伝えることも確かめることもできない。
何とももどかしく煮え切らないものが喉元に突き刺さったような結末でした。。
ただ、最後に良鷹がずっと鹿乃に「いらない」と言っていたレモンパイを、突然「食べたい」と言ったのには、どこかしら吹っ切れたような感じがして、レモンのような清々しさを感じ取ることができました。
また、今回初登場の真帆ですが、良鷹となかなかいいコンビで読んでいて楽しかったです。
でも真帆にとっては不本意でしょうけど笑。
まとめ
今作も先が気になったこともありますが、面白くて一気に読んでしまいました。
全体的に漂う懐かしくも温かい雰囲気が、コロナ禍という現状を忘れさせ癒してくれました。
最終話を読了後には、急にどうしよもなくレモンパイが食べたくなりました(笑)。
続刊も近いうちに読みたい気持ちでいっぱいなのですが、未読の本がたまっていて、次はどの本を読もうか考え中。。
こんな悩んでいる時間も楽しくて好きなんですけど(笑)。
ここまで読んでいただきどうもありがとうございました。
また次回もお付き合いいただけますと幸いです。